この世の至る所には賢者が集う場所がある。
彼らが一同に会し、お互いの顔を見て議論を交わす事は無いが、それでもその「議事録」は、そこにしっかりと刻まれていく。
それが、便所だ。
あなたも一度は見たことがあるだろう。
個室に入り扉を閉めると目に入る、数々の罵詈雑言、トリック、哲学・宗教的な引用文、数字と記号の羅列、同姓・異性への熱いリビドーを綴った文言。
別に目の前だけとは限らない。紙に手を伸ばせば、カバーの上や紙の影にはまた新たなジョークが刻まれている。
中には、中々に思慮深いと感じてしまうような文言もあったのではないだろうか。
今日、便所で見た
"Socialism is the only way forward (超直訳:社会主義こそが唯一の(進むべき)道だ)"
という文言が、自分にとってのそれであった。
前期、政治観念学で社会共産主義を学んだ際、「社会共産主義は資本主義の最終形態である」という主張を見たことがあったため、この文言は、成程真理をついている、と一瞬考えた。
確かマルクスの主張であったと思われるが、資本主義を極めた国家-国民全員が十分な金を持ち、格差の少ない国家-こそ、社会共産主義の目指す理想であり、資本主義のゴールである、というのがこの主張の根幹である。
しかし実際、自分たちを取り巻く状況を見てみると、資本主義は中々に不安定であると言わざるを得ない。
現に97年のアジア金融危機、先日のアメリカ金融不安など、資本主義経済に倣うが故に起きた国家的・地域的な不安や危機は、上げれば枚挙に暇が無い。
然るに、近年もしくは近未来中に、最大の資本主義国家アメリカが社会共産主義に転換したとして、国家としての体を保ち続けられるかといえば、恐らくは否であろう。
例えば、スラム街から出てきた黒人が大統領のイスに座り、
「自分たちと白人は、平等だ」
という哲学を基に共産主義を敷いたとして、白人は皆資産を持ち出して他国に逃げ出すだろう。
まるでジンバブエである。
そして、10年前の香港がまさしくこの状態であったとも聞く。
加えて、「資本主義を極めて」から初めて存在しうるはずの社会共産主義国家であったソビエト連邦は、70周年を待たずして崩壊。
現代における社会共産主義の生き字引、中国ですら、国内総生産(GDP)の57%が沿岸部の省によって生み出されており、内陸との格差は広がるばかり。
中でも単独で5%を占める上海市は経済特区として指定され、10%弱を弾き出す広東省は、香港・澳門を抱える「一国二制度のお膝元」といえ、社会共産主義が浸透しているとは言い難い。
(この値は2001年の統計を基に自分で計算したため、現在の状況とは180度とは行かないまでも、90度くらい間違っているかもしれない。)
これらを見ればわかるとおり、たとえ究極の資本主義がたどり着く先が社会共産主義だとしても、その社会共産主義は、それ自体として機能し得ないのである。
しかし、実際どんなに意味のありそうな文章でも、それらに意味があることは、総じて無い。
彼らは、何か深い考えがあってその文言を導き出したのではないのだから。
故に、その文章によって導き出される自らの思考も、また然りである。
何書いてんのか分からなくなった。
要は、便所の落書きはすごくそれらしく見えても所詮便所の落書きって事です。
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