綿を詰めた歯が痛気持ち悪いのに、次回の歯医者が一週間後。背番号11です。
整体が一週間は分かるけど、二・三回で終わる虫歯の治療に一週間て勘弁して欲しい。開いたらすぐ行くから毎日入れて欲しいくらいだよ……。
で、タイトルは先日、仕事前に入った北習志野の本屋で、タイトルに惹かれて立ち読み→購入に至った今回の本。
冒頭を読んだ時から「そんなに文章は上手くないな」と思ってたけど、読み進むにつれてスピードの上がるストーリー展開は嫌いじゃない。総合的に一言で纏めるなら、想定以上期待未満な作品。
以下、あらすじとネタバレビュー。
偶然の事故に見せかけてターゲットを死に至らしめるという噂の殺し屋「死神」を、生活を賭けて追うことになってしまったフリーライターの主人公。完璧超人な先輩・本宮や知り合いのヤクザ・松重の協力を得て段々と死神の正体に迫っていく……。
一方同じ頃、「妄想刑事」板橋と刑事課ルーキー御室のコンビは、議員秘書の事故死をきっかけに、17年前のある一家殺害事件から死神の存在を探る。
この他、田舎に住む少女、幻の本を探すOL、今をときめく大女優……全てが「死神」というひとつの事象で結びつく時、主人公たちは真実に辿り着く……。
という今回のお話。
全体を読んだ感想としては、中盤まで、具体的にはヤクザと知り合うまでは我慢の作品。そこから少し話のレベルというか、完成度が上がる。
あとがきまで読んでみて知ったけど、なにやら選考時に「無駄に長い」と言われて「蛇足を」削ったらしいからこんなムラが出来たのかもしれない。正直、その無駄に長いほうを読んでみたいと思わせられた。
そして、著者本人が「小説は駄目でも脚本なら……」という思いで書いた作品だからなのか、情景描写が少ないので、小説としてはいまいち面白くない。ただ冒頭でも書いたように、物語が進むにつれてスピードが上がってくるから、映像にしたら面白いかもしれない作品。
ちなみに、もし映像化されてもFinal Destinationが好きならこれには期待しないほうがいい。「死のピタゴラスイッチ」(あとがきから引用)な点は共通してるけど、あの作品ほど死に方に多様性がない。死神のSATSUGAI方法はたったの二つ、人に頼むかバナナの皮なので、Finalシリーズみたいなトンデモなオモシロ死に様はあんまりみられません。
逆に言えば、FDを意識したのなら、もっと死神のやり方にも多様性を持たせて欲しかった。そうすれば最後の最後まで緊迫感が持続したと思うし。むしろバナナの皮にこだわりたかったのなら、もっと登場人物をコミカルにして殺害方法は全てバナナの皮で統一すべきだった。
あと、「様々な登場人物がひとつの事象に繋がる」っていう、最近のストーリーにありがちな手法(個人的に「バンデージ・ポイント方式」って呼んでる)を使ってるけど、正直使いこなせてない。この点に関しては、ネタバレ含めてキャラの話をしないといけないから後ほど。
そして、これは思い違いといわれるかも分からないけど、作風自体がフワフワしてる。
途中まではいい調子でサスペンスしていくんだけど、突然テンポが変わって、結局最後はドタバタで終わる。
個人的にはシリアスパートの方が流れがよかったと思っているから、最後は変に色々ぶち込まずに静かに幕を引いてほしかった。それか、ああいう風に締めたいならもっとコミカルに、雰囲気でいえばラッシュアワーとか、ビバリーヒルズ・コップとか、ハリウッド的殺人事件とか、あれくらいシュールなジョークとかを交えつつテンション高めにやって欲しかった。
以下、色々な要素に分割してれびう。この辺からネタバレ多し。
まず、この作品の一番残念なところは意味のないキャラ、中途半端なキャラの多さ。
ぶっちゃければ、この作品には主人公と死神、刑事コンビ、女優、そして松重とその恋人以外必要ない。
作品を通して重要キャラとして描かれている本宮だけど、こいつの描写が正直微妙だし、キャラもなんかフワフワしてる。「お調子者・飄々としてる」「意味不明・よく分からない(よく言えばクール?)」「完璧超人・頼りがいがある」なんて、助手キャラ(若しくは三枚目)に合ってる要素全部乗っけたからこんなキャラになったんだとは思うんだけど。
他には、途中で出てくるヤクザの舎弟も中途半端。松重に諭されて改心したはずが、火事に巻き込まれて重傷、松重殺されて復帰、モブに殺されて退場なんて、正直マジでいてもいなくてもいい。特に、こいつが退場するシーンでは、むしろこいつがいないほうが場の緊迫感とスピードが維持できる。折角主人公が、刑事コンビの突き止めた事実を死神に突きつけるという、サスペンスや推理小説で行けばクライマックスなのに、こいつが殺されたことで一気にその緊張の糸が切れて、あとは幕を引くしかなくなってるから、最後の最後でドタバタしちゃってる。なんというか、「巻いて巻いて!」状態。
そして幻の本を探すOLの話も、尻切れトンボ状態で収まりが悪い。こいつの最後は焼身自殺なんだけども、動機が「お目当ての本(シリーズ物の最終巻)の主人公に自分を投影して焼身自殺」という、控えめに見ても頭の悪い動機。そして、恋人が出張先でそれを手に入れてから、どうして自殺しようと決意したのかと言う経緯を書いてない。しかも、恋人との電話の場面を勘案すれば、最悪自殺じゃなくて他殺という結論も導き得ると言う、非常に大事な描写をゴッソリ書いてない。
個人的に著者は、恐らくここの章に一番力を入れて、一番量を書いて、一番削って、そしてその際に一番削っちゃいけないところを削ったんだと思う。そうじゃないとこれだけ設定盛り込まれてるキャラ・作中作と、事件解決に繋がる重要なシーンを導くファクターを、こんな不完全な形で置いておくわけがない。このOLの章を書ききっていてくれれば、正直作品全体の評価が一段上がったのにもったいないと思う。
次に、物語において全く必要ないキャラたち。具体的には編集長と田舎の少女。
二人しかいないなら別に多くもないんじゃ……と思いがちだけど、この話、意外と登場人物が少ないから大問題。
特に編集長は、わざわざ「アラサーだけど敏腕美人、口癖は『いい男いない?』」なんてキャラを立てたのに、存在理由は主人公にきっかけを与えるだけという、すごくもったいない使い方をされてる。他には時々の記事の催促と、時々の主人公のちょっとした回想と、ラスト前に死神の言伝をする以外に登場シーンがないという完全なモブ。全くキャラを立てる必要が無いし、いなくても物語が始まりうると言う存在。正直、ここまで「使えるのに使えてないキャラ」は初めて見た。
それと田舎の少女。彼女は松重の恋人の娘(要は松重の娘。面識はない。)で、母親との生活を軸に田舎のシーンにおけるストーリーテラーなんだが、これも正直松重の恋人がやればいいだけ。あんまりいる意味がない。松重が死んだ後出てくることもないし。なんかストーリーに女っ気を加えようという、料理に失敗する隠し味みたいな心遣いが見え隠れする。
そして、これらのキャラの視点・ストーリーから死神に繋がっていくっていうのがこの話の全体像なんだけど、これが使いこなせていないといった理由は、新しい要素が途中でポンポン出てくることと、やけにストレートに話の核(死神)に繋がってしまっていると言う事。よく言えばシンプル、悪く言えば単純。これがテンポの速いストーリーを実現しているのかも分からんけど、なんだか下手な木の絵を見ているような気分。
俺が具体的にそう思ったのは、本宮がスラスラと持論を展開する要所要所と、やけに簡単に調べられる情報、そして口を割る警察。普通、この辺では情報を得るために回りくどい手を使ったり、たくさんの仮定をそれぞれ検証しながら推理するという過程があるはずなのに、その辺が綺麗にペターっとなめされていて、歩きやすいけど非常に物足りないパートだった。俺はサスペンスや推理小説には、松の木みたいなゴチャゴチャクネクネした、自分の考えもつかないトリックや展開を見せて欲しい人だから、この点に関してはちょっと消化不良。
そんなとこか。
なんか批判ばかり書いたけど、そんなに悪い印象を持ってるわけではない。
ただ、良くも悪くも普通。ストーリーのまとまり方、テンポ、発想はそこそこ好き。ただ削られたのか書いてないのか分からない、片手落ちの部分が多いのは非常に残念。そんな作品でした。
そんな感じです。
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